約 92,260 件
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/103.html
第一回戦【雪山】SSその2 モニタの向こう側には、ただただ単調な白が続く。冷気は車中に染みる事こそないが、それでも死の世界の予感を色濃く滲ませている。 雪に溶けるかのような、白く塗装された対魔人LCV――指揮装甲車。 「あァ~~~、さっむ……」 広漠たる大自然の風景に似つかわしくないそのオブジェクトの中――石丸圭介二等陸尉は、手を擦り合わせた。それは雪原の風景から喚起された、単なる条件反射であったが。 彼が率いる対魔人小隊に緊急出動の指令が下されたのは、わずか20分前の事だ。 「フゥ~~ッ……クソ魔人ごときが……このご時世に呑気に『トーナメント』だァ?」 小規模な戦闘システムの統括すら行う新型LCVの感知能力は、尾根より数kmの地点で試合を始めた『標的』の状況を、余すところなく捉えている。 「ふざけるも大概にしろよ――日本の秩序は人間様のものだ、屑共」 ビスケットを噛み砕く音が、赤いランプに照らされた車内の静寂を割った。 ---- 一面の銀世界。 トン、トン、トン、……一定の間隔で、音は続いている。 聖槍院九鈴と、赤羽ハル。遭遇から6分。未だ互いに有効打を与えられていない。 「近づかない。あなたのその判断は、完全にただしい」 トン、トン。柔らかな雪を叩く音は、九鈴のトングだ。地を一定の間隔で叩きながら距離を詰める、それは異様な動きであった。 「……ハハッ……まずいよな。俺さぁ……普段はもうちょっとだけ、口が回る方なんだけれど。ちょっとここ、寒すぎないか?」 軽口を返す男は、赤羽ハル。距離を離す。残された硬貨は……100円玉1枚。10円玉2枚。広大すぎるフィールドに、落ちた硬貨を覆い隠す雪。 故に残弾はこの3発のみと考えてよかろう。しかも吹雪。これまで撃った6発は、いずれも命中弾となってはいない。明らかに「日本銀行拳」の指弾で処するには不利な環境にある――それでも、距離を離さざるを得ない。 「可愛い女の子とデートする環境じゃあないッつーの……」 赤羽のジャケット。その右袖は破れていた。のみならず、その切断位置……肩の付け根からは、真新しい鮮血が筋になって流れている事が見て取れるだろう。 「次は袖じゃない」 九鈴は言う。……トン、トン。 『タフグリップ』。「聖槍院流トング道」――その特異な武術によって培われた精神認識を核とする、聖槍院九鈴の魔人能力。 彼女のトングが掴んだ物体は、決してそのトングから離れることはない。彼女がトングから手を離そうとも、永遠に。 紙幣を使って、掴まれた袖の根本から切り離す……歴戦の暗殺者の一瞬の状況判断でもなければ、逃れる事はできなかったであろう。 例え自身の肉を巻き込むことになろうと、0.3秒も切断が遅れていたならば、彼の体は九鈴のトング道の技術によって、動きを封じられ、投げられ続けていた筈である。 この極寒の雪山の中で。撲死か凍死するまで、永遠に――だ。 「……袖じゃなく、肉をつかむ」 (違う……) 赤羽ハルは……。その口調の端に、違和感を覚える。本心からの言葉ではないと。 (違うな) 吹雪は強くなり、右手に構えた硬貨の狙いが定まらない。……そうではない。この女の狙い。対処を。 が、トン、トン……と地を叩いていたトングが、突如動きを止めた。 「『ある』事はわかっていたんです。地の下に、何がうもれているか。それがなんであろうと、ゴミを――異物をさがし、ひろうことが、聖槍院の技」 「……チィッ!!」 敵の狙いを悟り走り出すが、既に遅い。 九鈴は瞬間、その地点に深く……深く左のトングを沈み込ませ、『それ』をひきずり出した。 「しね」 およそ4m立方にも及ぶ、巨大な雪氷塊を。 ――雪の日の後のアスファルトがそうであるように。豪雪地帯の雪中には、部分的な日照によって溶け……再氷結した、氷塊が埋もれている。 特に年間を通して雪が降り積もる雪山には、重量にして数tにも及ぶ巨大な雪氷塊がその身を隠しているケースがある―― トングで地面を叩き続ける動きは、反響の感知。ゴミを拾い集める聖槍院の技は、堆積するゴミ山の上からであろうと、中に埋もれた粗大ゴミを見逃すことはない―― そして、自身の重量の数百倍にも及ぶオブジェクトであっても。もう片手、右のトングで絶対的に地を掴む『支点』と、対象物の重量すらもそのまま力に変える、古式トング道の合気を以てするのならば。 「……!!」 重機じみたスピードで薙ぎ叩きつけられた即席のスレッジハンマーが、赤羽ハルの肉体を強く、斜面上方へ吹き飛ばした。 振り切られた雪氷塊の巨重が、低く雪山の静寂を鳴動させる。 「……近づかなくても、結局はおなじ。ゴミは全てそうじする。すべて……すべて」 「こほっ、うォッ……マ、マジか。ハハッ……」 どこか恍惚と呟く九鈴の声が、遠く聞こえる。 血液が多分に混じった吐瀉物が、新雪を赤く汚した。砕けた骨の欠片のようなものが見えるのは気のせいだろうか。 (……強い。日本銀行拳は所詮、都市の環境に依存した暗殺術でしかないわけだ。マジで考えなきゃあな。死ぬ……ぞ) 自然と共に、人工物を廃するために培われたトング術は――まさにこの雪山のような、死の世界のための武術といっていい。何よりこの異様な精神性。まるで組合の暗殺者だ。殺人に一切の躊躇が見られない。 片膝をついて体力の消耗を抑えつつ、赤羽ハルは考える。直接的な戦闘能力であれば、自分の方が上だ。しかし、離れれば氷塊。近づけば『タフグリップ』。隙はあるのか。 (ある。当然だ。……この程度は初めてじゃあないだろ? 自分の経験を舐めるな、赤羽ハル) 例えば、足。 彼女の懐に潜り込むステップの中で、密かに自分の靴を脱げるように仕込んでおく。 赤羽ハルの靴の中敷きには常に一枚の1000円札が仕込んであり――トングに腕を捉えられ、動きを制したと敵に思わせたその瞬間、蹴りで切り裂く。 足指で紙幣を掴み、股間から腹に向けて一閃。赤羽のリーチと蹴速ならば、致 「わたしのせいだ……わたしのせいだ」 無意味な言葉をブツブツと呟きながら、トン、トン、と、再びトングのリズムが鳴り始める。近づいてくる。 「……。確かに止めを刺しそこねたのは、あんたのせいだな。2ラウンド目といくか? 何しろこの寒さだ、そろそろ俺も体力が……。………………?」 赤羽ハルは訝った。聖槍院九鈴も同時に、響き渡った轟音を不思議そうに見上げていた。 白く吹雪く天空に、黒く巨大な鉄の鳥が、菱型の影を浮かべている。 無人戦闘機――対魔人UAV。 ---- 「 茶 番 」 わずか11歳の少女は、口の端を吊り上げて嗤った。 2人の戦闘風景は、当然のように……最初から最後まで、余すところなく捉えている。 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 彼女は今、対魔人LCV――指揮装甲車の車中にいるのだから。 「トーナメント。10億円。……副賞? 人間、視点の狭さは成長しないって事かな……? 『あと一人』ここに対戦相手がいることも、わかっていないんだから」 ――2人が彼女の存在を勘定にすら入れていなかったことも、ある意味で当然の戦局判断ではあった。 体感温度-50度にも達する雪の地獄。如何な魔人能力を持った所で、いずれ11歳の子供が長く生存できる環境ではない。 ……外気を完全に遮断する、装甲車のような装備でも持たなければ。 そう、この装甲車は紛れもなく彼女自身の『装備』であった。 だが彼女のような、組織の後ろ盾を一切持たぬ、たかが11歳の少女が……最新鋭のLCVを所有する事など、現実に起こり得る事態であろうか? 是である。 少女の――三つ巴の第一戦、最後の一人、高島平四葉の魔人能力『モア』。敵よりも強い武器を生み出す。ただそれだけの魔人能力。 ……つまり、彼女の『敵』が持つ装備であるならば。 《んー。このスイッチでいいのかな。赤羽ハル。聖槍院九鈴。君たち2人に告ぐ》 複合レーダーによる自動索敵の起動と、各種電波妨害機構の作動。外部スピーカーによる鎮圧対象への呼びかけ。車内のマニュアルで読み解くべき箇所は、その3つだけで良かった。 言い換えれば、その解読に要する時間まで……あの2人には車の外『遊んで』もらう他なかった、とも言えるが。 《わたしは、高島平四葉――》 斜面上方。数百m先で争う2人に、黒髪の少女は悠然と告げた。 《今すぐ降伏しなさい》 ---- 大音声が、降り積もる雪を震わせる。戦場のバランスは一変していた。 瞬時にしてその力を……彼方まで突出させた、三角形の一角。 《わたしの魔人能力は『モア』。――わたしの敵よりも、少しだけ強い武器を作り出す。それが能力》 証拠もあるわ、と、幼い少女の声は続ける。君たちの武器は、トングと貨幣でしょう――。 赤羽ハルも聖槍院九鈴も、動きを止めずにはいられなかった。はるか斜面の下方、戦闘車両の放ちはじめた威圧的なサーチライトが、彼らの位置からも見えているのだ。 《わたしの目的は、こんなちっぽけな島国のトーナメントでの優勝じゃない。 目的は……世界の征服。そして軍事力と経済力を背景として、そのための『後ろ盾』を手に入れること。 わたしはただ、兵力を集めるためだけに参加している。世界を獲る兵を》 コンソールに映る電波妨害機構の作動状況を横目で確認して、四葉は悪魔的に笑う。 無論この『交渉』の内容は、七葉やWL社はもとより、目高機関にすら知られることはあり得ない。 日本最新鋭の兵器による電子妨害より『ちょっとだけ強い』妨害機構を突破する電子戦能力など、ここが日本である限り、存在し得ないのだから。 《……わたしは『モア』で作った。世界に蔓延する新黒死病よりも、さらに『一段階』強いウィルスを。 そして『一段階』強いウィルスは、既に――わたしの故郷に投下している。今まさに、第二のパンデミックが起こっている》 「……。なにを」 常に零下の温度を保っていた聖槍院九鈴の瞳が揺らいだ。 さらに上にいる赤羽ハルの表情は見えない。だが彼もまた、動いてはいなかった――そうせざるを得ない。 《その犯行は日本政府に予告している。次の犯行――『二段階』強いウィルスによるテロ行為の日時も。 わたしの大会参加と同時に、日本政府はわたしの監視追跡を開始。わたしを大会中に抹殺する準備を整えて、目高機関と今も交渉しているはず……ふふっ。 きっとこの雪山付近にも、兵力は待機している》 ――読み通り。 彼女の装備は――現在の日本で最強の索敵能力を誇る対魔人LCVも。空を哨戒する、3機もの対地攻撃能力UAVも―― ……今現在、『日本政府』がターゲットたる四葉自身に向けている装備の一部に過ぎない。 「敵より少しだけ強い武器を作る能力」。これを以って、世界最強の武器を作り出すためには……まず、何をすべきか。 、 、 、 、 、 、 、 単純な結論だ。世界を敵に回せば良い。 推定でも数千万以上の視聴者が注視するこの大会に自衛隊が強制介入したならば、既に下落しきった日本政府への信頼は、さらに地の底に落ちることとなる。 仮にも『試合』形式である以上、トーナメント外の勢力による試合中の武力介入は、目高機関、七葉……世界を牛耳る勢力によって、全力で妨害されるであろう。 世界を征するに際し――最強最悪の魔人能力『モア』に唯一欠けたるものは、兵器を生み出すための、兵力。 そして単独での戦闘であれば、既に単体にして日本政府を超える『兵器』を無限に生み出す術を持つ四葉が負ける要素など、無い。 日本全域から最強の強者たる魔人能力者が集まるこのザ・キングオブトワイライトなど、この高島平四葉にとって、最強最悪の精鋭兵団をかき集めるための、巨大な集兵場に過ぎぬ――。 《……今、UAV三機の空対地ミサイルが君たちに照準を合わせている。接近すればLCVの迎撃機銃が自動的に君たちを消し飛ばす。 このぜんぶが、日本政府の保有兵器以上の性能を持っているわ。君たちの優勝はあり得ない……それに、いくらお金を手に入れても、願いを叶えても意味はない》 ――いずれこの世界は、四葉の作り出した戦乱に呑まれるのだから。 《それでも君たちは運がいいの。今なら、勝ち馬に乗る事ができるんだから……。 聖槍院九鈴。ゴミを片付ける一番の方法は――不要なものを『捨てる』ことでしょ? 降伏してわたしの側につくなら。世界のすべてを、綺麗に片付けることができる》 九鈴は暗い目で、斜面の底から響く、ただ一人の地獄軍の演説を聞いていた。 愛用する漆黒のトング『カラス』が、ザリザリと雪を掻いた。 《赤羽ハル……一回戦で君に当たってよかったわ。無限に最新兵器を生む、わたしの『モア』。 あらゆる物体を、接触だけで換金する君の『ミダス最後配当』……組み合わせれば、世界の経済を思うがままに動かすことができる。 10億円? そんなくだらない、ちっぽけな金額どころじゃあない。経済と軍事の両面で、世界を支配することが……現実にできる》 赤羽はジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、ぼんやりと空を眺めていた。 3機のUAVの黒い翼が、灰の雲の只中に白い軌跡を引いていた。 「「断る」」 2人は同時に返答した。 ---- ――聖槍院九鈴は、深い失意と悲しみの底にあった。 (ごめんね。……本当にごめん) ゴミ一つない整然とした大ホールの如き澄んだ彼女の心中には、無限の謝罪だけがある。世界すべての存在に対する、底なしの暗い贖罪の深海が。 、 、 、 、 (あのウィルスを、解き放っただけじゃなかった……わたしは、第二の惨劇まで) 申し訳ない、申し訳ない、申し訳ない、申し訳ない――。 聖槍院九鈴は常に、あらゆる人間に謝罪していた。 (核を落としたのもウィルスがまかれたのも父さんがしんだのも母さんがしんだのもおじいちゃんが死んだのも九郎が死んだのも 近所のおばさんが死んだのもわたしの街が滅んだのも地球環境の乱れでしんでいくたくさんのいきものたちも毎日毎日戦争がつづいて たくさんの子供たちが飢えてしんで世界の不幸がきえず人間の心の悪意が連鎖してなにもかもなにもかもなにもかもがいずれ滅びるのも ぜんぶわたしのせいわたしのせいわたしのせいわたしのせいわたしのせいわたしのせいわたしのせいわたしのせいわたしのせい) 、 、 、 、 「わたしが」 黒いトング――『カラス』が、ギャシャリ、と地獄のギロチンの如く牙を開いた。 「掃除できなかったから」 だから世の人の心は荒み、だから争いは起こるのだ。 兵器というゴミを片づけ『られなかった』から、人の命が無駄に散って、ウィルスというゴミを片づけ『られなかった』から、パンデミックが起きた。 人が飢えるのも。世界の悪が消えないのも。 ――地球を汚す人間の形をしたゴミを、九鈴が片付け『られなかった』からだ。 彼女は狂っていた。あの日落ちた核の光が、心を真っ白に漂白してしまっていた。 《……交渉は決裂。それも想定内。問題もない……だってこれは『試合』だもん。 君は死んでも生き返るし、わたしにだって次が――二回戦があると、保証もされている。 とりあえず一回は、恣意行為としてこっちの戦力を示しておこうと思ってたし》 「ゴミめ」 九鈴は、再び自身を巨大な梃子と化して、氷塊を持ち上げつつある。 低い呟きは、雪に儚く溶けた。 ――ここまで、高島平四葉が想定した戦略通りであった。 彼女がこの試合で欲しい人材は、経済要員として巨大な富を生む、『赤羽ハル』のみ。 彼を引き入れ、仮にでも勝者として勝ち進めば……目高機関による選手で在り続けることができる。彼らによる庇護は続く。 事実それができたのならば、10億や副賞程度――赤羽ハルにくれてやっても構わないとすら考える。 聖槍院九鈴ならば、死んでも構わない。 だが、唯一…… 「ゴミが。しゃべるな」 唯一想定外だったのは、その聖槍院九鈴の精神性が、尋常を逸した高島平四葉すらも想像の及ばぬ境地に達していた事であり。 そして、UAVが対地ミサイルの照準を定めるよりも先に。 遠く数百m先で振り上げられたそのハンマーが、四葉を殺し得る手段を持つという事であった。 「掃除婦はモップを振り上げファラオとその家臣の前でナイル川の水を打った」 高く掲げられたトングは、天空の光を乱反射して、黒く輝いた。 先の一撃。赤羽ハルを叩き飛ばした、雪氷塊による一撃。それを振り下ろした震動は――彼女に、何を知らせただろう? 氷塊の位置を知らせる、聖槍院家特有の探知性能……それが、例えば。 柔らかな新雪の下に固められた、なだらかな斜面。 ――『雪崩』を起こし得るその地形を、巨大な震動で探知していたとすれば。 「川の水は血に変わり川の魚は死にエジプト人は」 意図不明の詠唱とともに、九鈴の一撃が強く山を叩いた。 下方に位置する無尽の雪が一斉に断末魔の嘆きを上げて、装甲車に躍りかかった。 「ナイルの水を――」 ――『弱層』と呼ばれる結合力の弱い雪の層が、その下で固められた古い積雪の層に沿ってなだれ落ちる現象は、表層雪崩と呼ばれる。 その速度は、最大でおよそ200km/hにも達し……これは新幹線の速度に匹敵する。 その破壊力は住宅を吹き飛ばし、1平方メートル辺りの衝撃力は、大型トラック1台分にも匹敵する―― いかに無敵の武器を作り出そうとも。 いかに悪魔めいた戦略を打ち出す頭脳を持とうとも。 その圧倒的な自然の力を前に、装甲車はただの小さな棺桶に等しい。 「掃除、完りょ」 バシャリ、と血飛沫が散った。 言葉が終わる前に、聖槍院九鈴は死んだ。 「マジ、か……ハハ、ハハハハ……」 斜面の上に位置する赤羽ハルは、思わず笑った。笑い出す自分を押さえ切れなかった。 空から降ってきた、2足歩行の巨大兵器が――その瞬間に聖槍院九鈴を叩き潰して、赤い血の染みに変えたのだった。 上に待機していたUAVは、対地攻撃用途のものだけではなかった。 それは上方でホバリングし、その無人兵器を投下するタイミングを図っていたのだ……対魔人兵器。かつて別の世界線で国家が使役した、『転校生』にも匹敵する政府最強の兵器。 その名をTA-35といった。 《……もう一度言うわ、赤羽ハル》 兵器が薙ぎ払った熱線が、滑り落ちる雪崩を一瞬で蒸気に変えた。 九鈴の策はそれで終わった。 《降伏しなさい》 ---- 高島平四葉の思考は11歳にしては悪魔的な回転を見せる。だが、そのよく組み立てられた思考プロセスには幼さ故の隙も存在する。 例えば倫理的な観点から、他者が彼女の計画に対して反発する……といったような事柄を、未だよく理解できていない。 ――なぜ、他人の命に拘る必要があるのか? 新たな世界を作るのだから、今までの法や制度に縛られるなど、甚だ不合理な思考ではないか。 わたしの作戦は完璧に合理的だ。ゲーム理論に沿って、この大会参加者全員が最大利益を得られるように動くとすれば。 ……それは全員が、わたしの指揮する『革命』に加わることに他ならない。 当然のことだ。この荒廃した日本の秩序に従って、これから先も同じように苦役の暮らしを続ける事を、誰が望むのか?…… (……なるほど高島平四葉。お前の言ってることは分かる。確かにその能力があれば、俺だって6000億の借金はすぐに返せる。 元々命なんてない身だ。それを知って言ってるなら、11歳にしてお前は見上げた『殺し屋』だよ――) かじかんで紫色になった右手の指から、10円玉が落ちた。 肩からの出血が効いたか。このまま持久戦となっても、いずれ自分が凍死する。マイナス6000億しか持っていないというのに、また10円も無駄にしてしまった……。 ……腕が、動かなくなる。体感-50度。既にして両足も怪しいところだ。 腕と、両足が……動かなくなる。 いずれ死ぬ。 「ちひろさん」 無自覚に呟きが漏れた事に、赤羽自身は気づかない。 『パンデミック』。世界に新黒死病を撒き散らしたといわれる、正体不明の魔人能力者を指して、史上最強の暗殺者と呼ぶ者もいるという。 そしてこの少女がまた、第二のパンデミックを。……最強だと? 《あなたの動きはロックされている……5秒以内に両手を挙げなさい。それ以外の行動は全て、敵対行為とみなすわ》 空が、死で埋まっている。遠く前方の彼方からこちらに向かうUAVは、きっとこちらに狙いをつけている。 赤羽ハルは言った。 「……無人兵器、ってか?」 《……》 「お前が今まで使ってきた兵器ってさ――自衛隊の最新装備から選んでるように見えるけど。 結局AI制御の、自動兵器ばっかりだよなあ。自動的に目標をロックして、自動的に撃って……そーいうヤツばっかりだ」 何が、最強の。 「……その『モア』。武器の使い方は分からないんだろ? ……分かってるなら、長距離砲でも持ってきてこっちに狙いを定めていりゃあ良かったんだ。 結局、お前はただの子供だ。武器を持っている『だけ』の、子供。そんな短い人生じゃあ、鍛錬も何もない。 そんなヤツ、結局下から足元をすくわれる。暗殺か、良くて傀儡がいいとこ…… …………ついていく奴なんていない。本当は分かってるんだろ? ……」 相手に聞こえているはずはないと分かっていても、彼は朗々と喋り続けた。それは精神的優位に立つための儀式だった。 赤羽は、血に染まったジャケットを脱ごうとした。それが合図だった。正面の無人戦闘機がミサイルを射出した。 《――残念だわ》 (馬鹿が。この俺が……魔人暗殺者が、正面から……面と向かって、方向さえ分かってりゃあよ……) 彼は左腕を差し出していた。かじかんで、硬貨の1枚、掴むことすらできない手、だったが。 日本国内のあらゆる兵器を凌駕する破壊力の。マッハ3にも達する、暴力的な鉄の円筒は。 「『触れる』に、」 その瞬間、 「決まってるだろうがボケ!!」 、 、 、 ただの無力な2千枚の紙切れと化して、飛散した。 触れた物体を一瞬にして『換金』する。 『ミダス最後配当』。 《……っ、撃て!!》 その一声に反応し、斜面下方のTA-35は向き直ろうとした。熱線射出兵器を持ってすれば、敵の殲滅は容易であるはずであった。 ――だが、吹雪に紛れる大量の紙幣が、ほんの一瞬、赤羽ハルの体を隠していた。 AIで自動制御されたロック機能は闇雲の攻撃をできず、標的の姿を探した。見つかった。 赤羽ハルは既に、TA-35の懐に。 (……『そり』を) 車中のカメラ越しにその姿を追う高島平四葉の頭脳は明晰だった。 赤羽はあの時。ジャケットを体の下に敷いて……斜面を『滑った』のだろう。 聖槍院九鈴が立っていた。TA-35が今立っている。その位置に向かって…… 「最強の武器が欲しいって? 今、くれてやる」 《や、やめ――》 四葉はすべてを悟った。 赤羽ハルは機械の豪腕に薙ぎ払われるより早く、TA-35に触れていた。その位置は、先ほど九鈴が示した『雪崩の起こる斜面』で―― 事態の打開を求めてとっさに起動した『モア』は、遠く数百mに位置する敵の武器をコピーした。一円玉。 それが四葉の最悪の予測を証明していた。 ……そう、一円玉だ。たかが。 《そんな、馬鹿、な、》 ゴッ、という爆音が鳴った。チャリチャリと鳴る硬貨の金属音が無限に合奏すれば、そういう音になるのだった。 換金された最新兵器――TA-35の価格に等しい、数百億枚の『一円玉』の雪崩は。 その『たかが』数百億グラムの質量で、完膚なきまでに装甲車と高島平四葉を叩き潰した。 「――何時の時代も、金が一番の武器だ」 ゴールドラッシュ。 一面の『銀世界』を斜面の上から一望して、それで暗殺者は踵を返した。 第一回戦第二ブロック。勝者、赤羽ハル。 (了) このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/saki_nodoka/pages/31.html
●4スレ目 4-38氏 無題 (いつも通りに部室の扉を開けた咲。しかし何か違和感が……) 4-69氏 無題 (合同合宿以来の龍門渕メンバーに咲は話しかけられる) 4-170氏 無題 (上 SSの続編。アイドルとしての和に不安感を覚える咲) 4-205氏 無題 (上 SSのさらに続編。勢いで告白してしまう咲だが、さらなるすれ違いを生んでしまう) 4-221氏 無題 (上 SSのさらに続編。険悪が続く中、咲は昔の夢を見る) 4-322氏 無題 (上 SSのさらに続編。生まれて初めての恋。和の胸に募る、咲への想い) 4-398氏 無題 (上 SSのさらに続編。素直になれない自分に和は苦しむ) 4-747氏 無題 (上 SSのさらに続編。麻雀を始めた意味を考え始める咲) 4-762氏 無題 (上 SSの完結編?) 4-770氏 無題 (上 SSのさらに続編。まこと久がその後の二人について語る) 4-806氏 無題 (上 SSの完結編) 4-253氏 無題 (クリスマスが近づく。ばったり出会った部長たちに咲は相談を持ちかける) 4-266氏 無題 (上 SSの続編。部活の帰り道、咲は和の家に泊まりたいと申し出る) 4-XXX氏 無題(18禁) (上SSのさらに続編。お風呂で一生の思い出を作る二人……) 4-296氏 無題 (上 SSのさらに続編。二人で迎えた朝。目覚めた咲は、相性診断をする和を見つける) 4-388氏 無題 (元旦を迎え、麻雀部はみんなで初詣に向かう。そこで部長が取り出したものは……) 4-407氏 ONE DAY①~② 4-420 氏 ONE DAY③ 4-433 氏 ONE DAY④ 4-443 氏 ONE DAY⑤ 4-463 氏 ONE DAY⑥ 4-473 氏 無題 (部長から手渡されたのは寝台列車のチケット。しかも同部屋で……) 4-XXX氏 無題(18禁) (上SSの続編。二人きりの寝台部屋で二人は……) 4-486 氏 ONE DAY⑦ 4-506 氏 ONE DAY⑧ 4-583氏 無題 (新年最初の登校日。咲と和はいつものように二人並んで語り合う) 4-592氏 無題 (持久走大会に乗り気でない和に、咲がした行為は……) 4-607氏 ONE DAY番外編 4-624 氏 ONE DAY⑨ 4-634 氏 ONE DAY⑩ 4-652 氏 ONE DAY⑪ 4-664 氏 無題 (だるま市にだるまを奉納しに、自転車に乗る二人) 4-XXX氏 無題(18禁) (上SSの続編。だるま市の帰り道、夜の田舎道で二人は……) 4-727 氏 ONE DAY⑫ 4-737 氏 ONE DAY⑬ 4-742 氏 「でね?思ったんだ。ああ、だから和ちゃんはきれいなんだなって」 4-841氏 無題 (修学旅行で清澄一年生は京都を訪れる。咲との班行動に和の胸は鳴りやまず……) 4-856氏 無題 (上SSの続編。修学旅行二日目は自由行動。しかし案の定咲はみんなとはぐれてしまい……) 4-873氏 無題 (上SSのさらに続編。自分の気持ちの変化に気づきはじめる和) 4-XXX氏 無題(18禁) (上SSのさらに続編。明かり控えめのロビーで「友達の先」を求め合う二人……) 4-906氏 無題 (咲「和ちゃんがPSPに夢中で現実に帰ってきません」)
https://w.atwiki.jp/damecool/pages/5.html
投稿されたSSのまとめです。 女「人生オワタ。」 男「いきなりどうしたんだよ、何があった。」 女「遅刻欠席が多すぎて進級できないそうだ。」 女「困ったな…どうしようか…」 男「うーん、ていうかなんでちゃんと学校来ないのさ?」 女「実は…」 男「うん…ゴクリ」 女「オンラインゲームにはまってしまってな。 メインキャラなんか2回も転生してしまったよ。ふはは」 よかったら男もやらないか?今キャンペーン中でな、 他では絶対に手に入らないレアアイテムが…」 男「……(だめだこいつ…はやくなんとか(ry )」 女「ふう…。ところで男。」 男「?」 女「タミフルという薬を服用すると幸せになれると聞いたんだ。 試すなら今しかないと思わないか?」 男「らめえええぇえぇえぇえぇぇえ」 女「人生オワタ。」 男「またかよ。こんどは何があった。」 女「Winnyやってたらウィルス踏んでしまって、マイピクチャが流出しまくった。」 男「えっ!なかにはどんな写真が!?」 女「男のプライベートを隠し撮りしまくった写真数百枚だ。すまない。」 男「らめぇぇぇぇぇえええええええええ」 男「将来の夢は?」 女「ニートかお嫁さんか、とにかく働かなくていい状況になる事だな」 こうですかわかりません>< 女「人生ハジマタ。」 男「おっとぉ。どうした、何があった」 女「実は2週間ほど前から毎日のように来客があってな。これがなかなかいい人なんだ。 救われた気分だよ。」 男「へえ、友達?」 女「いや、知らない人だった。たしかエホバの商人と名乗っていたな。」 男「ちょ…」 女「商人というから何か押し売りされるのかと最初は疑っていたのだがな、 話を聞いていると、何かこう、救いの光のようなものが見えた気がしてな 熱心に私の話を聞いてくれた。留年しても神は許してくれるそうだ。 よかったら男も神を信じてみないか?救われるぞ」 男「……(やっぱりだめだこいつ…はやくなんとか(ry )」 女「\(^o^)/」 男「こ、今度はどうした?」 女「携帯をなくした」 男「・・・ちゃんと止めたんだよな?」 女「もちろんだ。a○のお姉さんは優しかったぞ」 男「女にしてはやるじゃないか!」 女「ただし、だ」 男「?」 女「携帯の中にはこの前、男が眠っている間に撮った写真が6メガほど保存してある。 この前Winnyで流失した秘蔵フォルダも真っ青な内容だ」 男「\(^o^)/」 テスト中… 女「……」 試験監督「のこり10分。」 女「……」 試験監督「のこり5分。出席番号と名前を確認してください。」 女「ザ・ワールド」 【催眠術】 女「催眠術を習ってきたぞ」 男「いきなりだなお前」 女「そこに座れ、かけてやる」 男「ちょ、ふざけんな」 女「…」 男「……わかったよ……」 女「いいか?この五円玉をみつめろ」 男「ん」 女「いいな?男はだんだん……眠くなる……」 男「…」 女「だんだん……猫になる……」 男「……猫?」 女「……猫……猫……」 男「…」 女「……にゃー」 男「お前……あーあ……」 女「にぃ?にゃーにゃー」 【増えるわかめ】 女「……」 男「なんだ?気分でも悪いのか?」 女「……お腹一杯なんだ……えっぷ」 男「?食いすぎはよくないぞ?何食った?」 女「わかめ」 男「はぁ?」 女「いやな、ダイエット中なんだ」 男「ああ、そうか」 女「でな……わかめは体にいいってことで、主食にしてるんだ……」 男「なんかいちいちずれてるよな」 女「……いっぱい食べたかったから……コレを食べてたんだ……」 男「……まさか……」 女「増えてる……のか?」 男「どこまでバカなんだお前?ほら、病院いくぞ!あーあ……丸々一袋……」 女「いたたたた……」 【納豆パティターイ】 女「ダイエット方法を変えた」 男「わかめは禁止な」 女「大丈夫。今度はテレビでも取り上げられていた。安心だ」 男「…」 男「……すごいよな……」 女「ん?」 ねりねり… 男「お前みたいなのが……騙されるんだな……」 女「何を言っている?」 ねりねりねり… 男「…」 女「納豆はな、痩せるんだ。言ってた」 ねりねりねりねり… 男「もうとめねーよ。好きにしろ」 女「でもな……納豆嫌いなんだ……」 男「俺にはお前がわからない」 ねりねりねりねりねりねり…… 【逆立ち】 女「男」 男「なんだよ」 女「逆立ちがしたい」 男「熱でもあるのか?」 女「壁相手じゃできんのだ」 男「だろうな。イメージすらできねぇよ」 女「だからな、足を押さえてくれ」 男「はいはい……」 女「行くぞ……とう!」 したっ! 女「おおっ!」 男「成功か?」 女「うんうん!これはすごい!世界が逆だ!」 男「それが見たかったのか」 女「そうだ!すごいぞー!いい景色だ!男も見てみろ!」 男「俺にはお前のパンツが丸見えだがな」 女「!!!!!!!!!!!」 男「顔に似合わず可愛いの履いてるな……うさぎさん?」 女「!!!ば、ばか!みるな!はなせ!ばかばか!!!///////」 男「そりゃお前だ」 女「\(^o^)/」 男「今度は何やらかした。」 女「さっき暇だったからVIPやってたんだ。」 男「お前……VIPPERだったのか……。」 女「それで偶然うpスレと出会ったわけだ。」 男「で?」 女「スレは徐々にヒートアップしていき、更新するたびにリンクが増えていく。」 男「……ほぉ。」 女「私もヒートアップしてそのリンクを光を超える速度でDLしていたわけだ。」 男「……悪い予感がするんだが。」 女「真相はあのノートの中にある。」 パカッ 男「うはっwwwwwグロ画像にブラクラwwwwwww」 女「ノートン先生も反応しまくりだぞ。またお前の画像流出したと思う。」 男「\(^o^)/」 【前転】 女「男」 男「なんだよ」 女「今度はでんぐり返しだ」 男「学習せんのかお前は」 女「今度は大丈夫。スパッツを履いた」 男「あーそうか。別に俺は履かなくてもいいけどな?」 女「/////うるさい///」 男「で、俺はどうすればいいんだ?」 女「あのな、上手いこと廻れんのだ。だから転がしてくれ」 男「お前ほんと熱あるんじゃねーか?」 女「いいぞ」 男「はいはい……」 ころん! 女「!!うわっ……もう一回だ!」 ころん! 女「あははっ!楽しいぞ!」 ころん!ころん! 女「……あはは……」 ころん!ころん!ころん! 女「ちょっ……」 ころんころんころんころん… 女「……やめて……吐く……」 男「あ、ごめん。俺が楽しくなってた」 女「……うえっぷ……」 【VIPクオリティ】 女「男、私のクオリティの凄さを見せてやる」 男「見せんでいい。おとなしくしてろ」 女「…」 【めがね】 女「男、男」 男「なんだよ」 女「私のめがねを知らないか?」 男「…」 女「授業中寝ていたらなくしてしまった。」 男「……」 女「あれがないと目が見えん。まずいな……」 男「始めてみたよ」 女「は?」 男「頭だ、頭」 女「え?あ……」 男「すごいな。そんなやついるんだな」 女「…」 男「?」 女「これは……私のじゃない」 男「おまっ」 女「…」 男「……誰のだよ……そもそもお前めがね着けてたか?」 女「あ、今日はコンタクトだった」 男「…」 女「……ドジッ子……」 男「ちがう」 女「……/////」 【弁当】 男「あ、やべ……弁当忘れたな」 女「ははは、そんなこともあろうかと」 男「え?」 女「今日はな、感がいいんだ。男は弁当忘れてくると思ってた」 男「感がいいって言うか?それ」 女「でな、二人分作ってきた」 男「おお、褒めてやるよ。ありがとう」 女「////」 男「それじゃ貰おうかな」 女「あ」 男「なんだ?」 女「…」 男「お前……まさか……」 女「お箸……忘れた」 男「ああ、なんだ。そっちか……いいよ。俺割り箸持ってるから」 女「あ、でもサンドイッチだった」 男「…」 女「ほら、あーん」 男「/////」 女「やあ、男。今日も魅力的……だ……」 男「女!? どうした、立ちくらみか!?」 女「ああ、すまない。 ようつべでガンダムSEEDを見ていたら、つい徹夜してしまったんだ」 男「……俺、なんでコイツと一緒に登校してんだろ」 【新聞】 女「この間な」 男「おう」 女「新聞屋さんが来たんだ」 男「ああ、新聞とってくださいってやつな」 女「だけどな、うちはほかの新聞とってるからいいですって言った」 男「あれ?やるじゃん」 女「しかしな、向こうもプロだ。すぐには諦めん」 男「ほうほう」 女「でもな……最後は私の毅然とした態度に負けたのか、諦めた」 男「おお、すごいな」 女「そしたらな、これをくれたんだ」 男「洗剤……とビール券?」 女「うむ。そのうえちょっと書類にサインするだけで、朝夕新聞を入れてくれるって」 男「いろんな意味ですごいなお前」 女「え?」 次
https://w.atwiki.jp/bokurobo/pages/292.html
信条発声カクゲンオー!・SS 単発 第1話 DBへ SS保管庫へ戻る
https://w.atwiki.jp/bokurobo/pages/471.html
原子豪傑 アトムライザー・SS 単発 最終話付近 DBへ SS保管庫へ
https://w.atwiki.jp/jyugoya/pages/929.html
SS分類/水素の心臓 WR/2005/12/04 儀式魔術/絢爛舞踏祭開始 9日目・朝 水素の心臓ルート Iコース 瀧川救出作戦(前編) GPM、式神の城、世界の謎、水素の心臓合同ルート 12日目・翠色の髪の伝説 瀧川救出作戦(後編) WR/2005/12/18 儀式魔術/絢爛舞踏祭終了 BALLS ボーナス クリサリスの休日(前編) BALLS ボーナス クリサリスの休日(後編) 水素の心臓 軍神物語の中の絢爛舞踏祭 カウンターアタックのはじまり 戻る→SS分類
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/128.html
第一回戦【洋館】SSその2 主人公のことについて、少し話しておこうと思う。 俺が知る限り、やつらは自己顕示欲が肥大しており、放置されることを嫌う。 自分がその物語の本筋の、中心にいなければ気がすまないのだ。 この性格は非常に厄介であり、例えばこんな状況になると手に負えない。 『どういうことだ』 ノートン卿の声は苛立っていた。俺だって、その気分だけは同じだ。 なにしろこの洋館中のあちこちから凄まじい轟音が、 館それそのものが自力で解体作業をおっぱじめたような騒音が響いている。 それに、さっきから通路を駆け回り、あるいは跳ね回って無差別な破壊を繰り広げている、 黒い異形の影の群れまで存在していた。 こうした騒音には、相乗効果の法則が適用されるに違いない。 低学歴の俺にだってそのくらいわかるんだ。 物置の一つに隠れた俺たちは、そうしたこの世の地獄のような 破壊・騒音・震動、その他に耐えなければならなかった。 おかげで頭痛が酷い。 『私はどういうことだと聞いているぞ、ユキオ』 「聞こえてますよ」 不本意ながら、ノートン卿の声について、無視はできても遮断はできない。 魔導書をいつでも開けるように抱えて、部屋の隅にうずくまる。 「うるさくてたまりませんよ、俺だって」 とはいえ、どうしようもない。 やつらがとっている戦術はだいたいわかる。 弓島は適当に館中の壁だか柱だかを撃ちまくって、その部分だけを強制移動させ、 俺たちを崩壊に巻き込むか、炙り出すかしようとしている。 直接遭遇してからの攻撃パターンに、自信があるのかもしれない。 一方で倉敷は、とりあえず手駒を増やすため、片っ端からあの異形を召喚しているようだった。 こちらも包囲される前に慌てて出てきた相手を打ち取るパターンに、何か策があるのだろう。 二人はうまく噛み合ってる。 俺はといえば、魔人どもと近距離でやりあうのはまっぴらごめんだし、 俺をぶっ殺すための策やアイデアを持った連中となんて顔を合わせたくもなかった。 「ノートン卿」 『くだらん意見は却下する』 「その素晴らしいお力で奴らを皆殺しにする、って作戦はどうでしょう?」 『くだらん意見なので却下する。いいか、愚かな編集者、ユキオよ』 ノートン卿はむしろ俺を諭すような口調で語る。腹が立つ。 『常に読者を意識せよ。 彼らが望んでいるのは、私の華麗なる活躍であって、やつらの殲滅ではない。 結果としてむろん私は必ず勝利するのだが、その過程が問題なのだ』 「はあ」 『ユキオ、きみは私の戦いを如何に演出するか、そのことだけ考えるがいい。編集者ならば』 「そうっすか」 つまり、ノートン卿は例によってまったく役に立たないということだ。 「なんとかあいつら、相互攻撃で自滅してくれねえかなあ。 ……もうしばらく引きこもって様子を見ますか」 『何を言っている、馬鹿め』 ノートン卿は俺を叱責した。 『連中がここまで派手にやっているのだ! 主人公である私が遅れをとってどうする!』 「やめましょうよ」 まず俺の口から出たのは否定的な言葉だった。 思うに、俺はそろそろ反省から学ぶべきなのだ。 このノートン卿は、否定されるほどに己の意志を強固にする。 「ぜったい隠れてた方が有利ですって」 『私は私より目立っている登場人物が存在することに、我慢がならんのだ!』 案の定、ノートン卿は激昂した。 『きみも私の編集者なら、それなりの仕事をしろ! 私を目立たせろ!』 「目立たせろって」 そして俺は迂闊な言葉を口にする。 「スポットライトでも浴びせろって?」 『応、それだ! ――ユキオのくせに有益なインスピレーションではないか』 ひとの脳内に向かって、大声でわめきやがる。 ノートン卿は、すっかりその考えにとりつかれてしまったようだった。 『この屋敷を燃やせ! 焼き尽くすのだ! そして炎の照明で私の戦いを彩れ!』 「え?」 『なにをぐずぐずしている、ユキオ! 燃やせ!』 「え?」 『焼き払え!』 結局のところ、俺はノートン卿の要請を無視できない。 こんなところで協力を断られたり、機嫌を損ねてはたまらないからだ。 俺の「え?なんだって?」戦術はすぐに瓦解した。 数十秒の問答の末、俺は影の中からおもむろに松明と、油壺を編集することになった。 ―――――――――――――――――――――――――――― ある建物が火に包まれる場合、自ずと退避する場所は決まってくる。 無差別的な破壊現象と、異世界・異形の解体業者による活動が行われていればなおさらだ。 上へ逃げるにしても、下へ逃げるにしても、このとき、収束する地点はひとつだ。 開けた場所、すなわち階段のあるエントランスである。 このとき俺が彼と遭遇したのは、完全な必然性の中にあった。 「なに考えてんの、あんた?」 弓島由一という少年は、生意気を立体化して、火薬を装填したようなやつだった。 片手には拳銃。ガスガンだったか? だが、それが射出する弾丸は、リアルな拳銃以上に危険であることなら知っている。 翻って、こちら。俺の武装は右手に抱えた一冊の本。 左手には、頼りなさげな影の松明。煌々と青白い炎がその先端で燃えている。 ノートン卿の《影の城塞》が保持する、備品のひとつだ。 ロケーションは一階へと続く階段を備えた、吹き抜け式の大ホール。 あたりは炎に包まれ、煙が立ち込め、ついでに大規模な自壊式解体工事が始まっている。 「自分自身をバーベキューするつもり? 頭だいじょうぶ? これ、自分も不利になるよね、明らかに」 人を小馬鹿にしたような態度。 俺はこういう生意気な餓鬼が、言うまでもなく大嫌いであった。 「俺だってこんなことしたくねーよ、クソガキ!」 俺は軽く咳き込んで、悪態を返した。 煙が辛いし、熱気も我慢しがたい。それは相手も同じだろう。 「それにこの惨状の責任は、三分の一くらいお前にもあるんだからな」 「オレはちゃんと自分が安全な状態から惨状つくるつもりだったよ。 あんたのは思い切り自分巻き込んでるし」 弓島少年は自分のこめかみのあたりを指先でつついた。 「ここ、足りてないんじゃないか? 低学歴だろおっさん?」 それは俺の怒りの琴線に触れ、思い切り引きちぎった。 このガキは年上への敬意が足りない。 『的確な指摘だ』 ノートン卿は俺への思いやりが足りない。 「大人にはいろいろあるんだよ。 派手にやれって言われたから仕方ねえだろ、ぶっ殺すぞ!」 「出た。精神年齢低そうな喋り方」 弓島少年は、むしろ呆れたように首を振った。 「話は聞いてる。その本だろ? さっさと売り飛ばした方がいいとおもうけどなァ、オレは」 弓島少年は喋りながら、仕掛けるタイミングを見計らっているようだった。 密林の猟犬のように、ゆっくりと歩きながら、一階へと続く階段へ向かう。 俺はそこに回り込むように、足を進める――弓島少年と近づくように。 「そんな狂った本持ってても、不幸になるだけだよ。 それともあんた自身もイっちゃってる系?」 ひどい言い草だ、俺とノートン卿を一緒にしてもらっては困る。 だが、俺の反論はノートン卿に封殺された。 『無礼な小僧だ』 ノートン卿の馬鹿げた怒りに満ちた声が響いた。 『八つ裂きにせよ! 断固粉砕あるのみだ、許す、殺れ!』 「ノートン卿に許されてもな……」 俺は愛想笑いするしかない。 仕掛けるタイミング。それが最高に重要な要素だ。 特に、このガキと、俺との戦いにおいては。 「ノートン卿。影の城塞。最古の殺戮文書」 弓島少年は歩き、呟きながら、俺の手の中のノートン卿を見る。 お互い、徐々に近づく移動経路。 「あんたに勝ったら、それ、もらっていい?」 なんてこった。俺は頭を抱えたくなった。 『ほほう。面白い。 この小僧の思い上がり、苦痛と恐怖をもって報いよ!』 ノートン卿の一方的な言い分は、いつも冷酷だ。 「――古本屋かよ、お前? それとも主人公?」 俺は訊ねる。弓島は生意気に笑う。 「だったら、どうかな」 「決まってる。お前なんて、」 俺が言いかけたところで、決定的なタイミングが訪れた。 半ば予想していたことではあったが、それは、 俺がもたらしたものでも、弓島がもたらしたものでもなかった。 「――行け」 低く、どこか虚ろな声だった。 「仕留めろ」 端的な命令であった。 倉敷椋鳥は、このホールに繋がる回廊の奥に、既にいた。 人形というよりは、石膏像のように硬質、かつ虚無的な表情であった。 足元にはいくらかの、小型の狼のような黒い異形。 来る、と思う前に、煙と熱の陽炎の奥から異形どもが飛び出してくる。 事前情報は半分あたりだが、半分はずれだ。 単純なGO・STOP程度の命令は問題なく通せるらしい。 だが、この俊敏さはどうかしている。ひどい凶器じゃないか。 それでも俺は考えるべきだったのだ。 魔人が、自らより遅かったり、ひ弱だったりする手駒を使うものか? 異形の狼が駆け込んでくる。 弓島少年は、何か――細かいゴミのようなもの、恐らくコインかネジか釘か? とにかくそいつらをポケットから空中に投げ上げ、スタームルガーで狙いをつけた。 ガキのくせになんて正確さ。 弓島少年の銃弾が、わけのわからん空中のゴミを連続して撃ち抜く。 俺としては、ノートン先生の力を借りるしかない。 松明を投げ捨て防御、防御防御防御! クールな俺としたことが、それしか考えつかなかった。 『よい。やれ!』 ノートン先生の命令とともに、本がひとりでにめくられた。 俺はいくつかの単純なスペルを編集し、己の影から《壁》を形成する。 これで耐えられるか? 壁が俺の視界を遮る直前、弓島少年の魔弾で撃ち抜かれたゴミが加速した。 まるで弾速。 くそっ。弓島由一。 弾丸自体は殺傷力に欠ける能力だと思っていたが、認識を改める必要がある。 それらの散弾は、俺と、倉敷椋鳥の放った狼に対する正確な迎撃となる。 コインやら金属片やらの弾丸は、俺の壁に当たって苛烈な音を響かせた。 あれが人体に当たったらと思うと恐ろしい。 そしてそれだけではなく、一拍遅れた衝撃のあと、壁自体がきしみ始めた。 「あーあ。畜生。やっぱりな!」 俺は思わず怒鳴った。 あいつ、この《壁》自体も撃ちやがった。これはヤバイ。 弓島由一の魔弾――《ガンフォールガン》は、ノートン卿の《壁》にも通用する。 俺の影が生み出した《壁》は、ゆっくりと、だが歩くような速度でこちらに迫ってきていた。 すぐに《壁》を解除するか? そのとき、俺は蜂の巣だろう。 そして魔弾の方に当たりでもすれば、それはすなわち脱落を意味する。 背後は壁。横は手すり。 一階へと続く吹き抜け状のホールだ。 『落ち着け、愚か者め』 ノートン卿の声。個人的には、役たたずは黙っていた方がいいと思う。 このチンケな《壁》がやっぱり通じなかった以上、逃げるしかない。 さらには当然のように、軋みながら動く壁のてっぺんから、異形の狼が頭をのぞかせた。 こっちは倉敷椋鳥の愉快なペットだ。 壁をよじ登ることができるらしい。そりゃ予想ぐらいしてたさ。本当だ。 ただ信じたくなかっただけだ。 圧倒的な防御力を誇るノートン卿の城塞だが、弱点はいくつかある。 そのひとつが、《人海戦術》。 寄ってたかって城壁をよじ登り、穴を掘り、乗り越える。これには対抗する術がない。 ノートン卿はあくまでも受動的なシステムなのだ。 『何を突っ立っている、ユキオ!』 ノートン卿は口だけは達者に命令してきやがる。 『さっさと退避せよ! 八つ裂きにされたいか、それとも押し潰されたいか!』 「そんなの」 俺は傍らの手すりに足をかけた。見下ろすのは、一階へと続く吹き抜け状のホール。 すでに炎が一階にも回っており、陽炎と煙を俺の顔を無遠慮に吐きかけてくる。 「わかってますって」 俺はほとんど躊躇なく空中に身を躍らせる。 とはいえ、怪我をすることが前提の無思慮な跳躍ではない。 俺の影が一階の床に染みを作った瞬間、すでにそれは階段状に立体化を始めていた。 俺はそれを使って一階へと逃れるつもりであった。 高低差があれば、弓島由一の魔弾にもいくつかの制限がつく。 《壁》や《盾》での防御ができる。 飛び降りる一瞬、弓島由一の迷惑そうな顔はちょっとした見ものだった。 ――が。 「お前たち程度に」 と、俺と同様、反対側の手すりに足をかけた男の声が聞こえた。 倉敷椋鳥の空虚な目を、俺は見上げることになった。 「あまり時間をかけてはいられん。手の内も、そうそう明かすわけにもいかない。 つまり」 倉敷は背中側から不吉に光るナイフを引き抜く。 「ここで脱落してもらうか、相川ユキオ」 そうして、倉敷はジャケットを翻して跳んだ。 さすが魔人の脚力。俺よりずっと強い。 一階に着地しても無傷で済む自信もあるのだろう。 『甘く見られたものだ。なるほど。 やつが手強い主人公であることは認めよう。しかし!』 ノートン卿が勝手に喚いていた。 『この物語の真の主人公は、この私! サー・ノートン・バレイハートただ一人よ! ユキオ、やつに一騎打ちを挑め。我が名誉の城塞で粉砕してくれよう!』 「やです」 俺は自分の影でつくった《階段》を転がり落ちるように降りながら、どうにか本をかかげた。 「ここは、仕切り直しですよ」 飛び込んでくる倉敷の方へ、全力でスペルをかき集め、編集する。 『なんということを!』 ノートン卿の怒りの声は遅く、影の《鉄格子》が一階の床から伸び上がった。 不幸中の幸い、火をつけて回ったおかげで影は無数にできている。 倉敷の跳躍を叩き落とすか、あわよくば串刺しにできるか? だが、そんな期待はするだけ無駄だった。 この期に及んで、ようやく俺は相手にしているのが魔人だということを知った。 倉敷は空中で身をひねり、姿勢を制御する。 眼前を閉ざしかけた、伸びかけの《鉄格子》の先端にナイフの切っ先を引っ掛けた。 これを支点として再度跳躍。 いとも簡単に影の《鉄格子》は飛び越えられ、俺はやつの一撃の前に無防備にさらされる。 どういう運動神経と腕力してやがる、魔人め。 『だから言ったはずだ、無能の編集者め!』 このやくたたずの本が、ここまでに一体なにを言ったというのだ。 俺は抗議したかったが、それどころではなかった。 『そんなつまらんトリックは読者が望んでおらぬゆえ、上手くいかぬのだ。 仕切り直す? そのような愚鈍で冗長な展開は、犬にでも食わせよ!』 ノートン卿のひどい言い草が響き、倉敷の冷酷な――というより無感情な目が迫る。 『正面から戦う、雄々しき戦士の武勲! それこそ太古の昔から連綿と続く、真の英雄の物語。 つまり真の読者が望むものだ! 己を恥じよ!』 うるさい。 俺はノートン卿を持つ左腕を掲げた。 別に耳を塞ごうと思ったわけではない、耳を塞いだところでこのクソッタレの声は聞こえる。 そういうわけではなく、ただ―― 倉敷椋鳥のナイフを俺の左腕が受け止める、ごきっ、という乾いた音が響いた。 「――ふん?」 倉敷は怪訝そうに片目を細めた。 それはこいつが初めて浮かべた、表情らしき表情だった。 俺の左腕は、倉敷のナイフを完全に受け止めていた。 外套の下の皮膚一枚、うっすらと血の滲むところで、冷たいチタンの痛みを感じる。 「お前」 倉敷は何か呟こうとした。 「魔人――なのか? しかし」 「うるせえっ!」 怒鳴って、俺は倉敷を思い切り蹴飛ばした。自然、その反動で俺も階段から転げ落ちる。 魔人でない俺にとって、これはとても堪えた。 ―――――――――――――――――――――――――――― 転げ落ちた瞬間、肺から空気がぜんぶ抜けてしまいそうな衝撃があった。 痺れる。 かろうじてノートン卿を取り落とさずに済んだことは褒められてもいいのでは? 『気を抜くな。寝ている暇はないぞ』 こうしたとき、ノートン卿の言葉は辛辣である。 しかし、彼の言い分もわかる。 一階にも既に炎は蔓延しており、俺は立ち込める煙の向こうから近づいてくる人影を見た。 強い煙に目が霞む。誰だ、手当たり次第に炎を付けやがった奴は? 「相川ユキオ。元・古本屋。殺戮文書の編集者」 倉敷椋鳥の細長いシルエットが煙をかき分けた。 その右手には拳銃。 種類なんて俺はわからないが、誰かをぶっ殺そうとするための武器であることはわかる。 倉敷は虚無的にすぎる表情で、俺とノートン卿を交互に見た。 「お前たちには賞金がかかっていたな。 谷根千の古本協会に恩を売る趣味はなし――関わるまいと思っていたが」 倉敷の顔に感情はない。 あるのはただ、何かを測定しているような実験者の表情だ。 「なぜ戻ってきた? わざわざ、こんな目立つところに」 「ケッ! 俺は戻ってきたくなかったぜ」 中指を立ててやる。 「ただ、うちの主人公がな。逃げ回るのは趣味じゃねえんだとさ! クソ野郎、その顔グシャグシャにぶっ潰してやるからな」 『よい回答だ』 ノートン卿は満足げに肯定した。俺にしか聞こえないが。 『満点をやろう。よって、いまから私がきみの戦いを指導してやる』 そいつは嬉しい。涙が出そうだ。 「……よくわからないな、お前の言い分は。 なぜあえて不利な選択肢を選ぶのか?」 倉敷は測定しかけていた何かを、簡単に投げ出した。 「結局のところ俺には欠けているんだろう、そういう何かが」 彼の足元に、無数の黒い影が集まりつつある。 異形の獣ども、やつらには煙も熱気もたいした脅威ではないらしい。 「だが、ただひとつ、望みがあるとすれば――俺には――」 『ふん。オレイン卿が付け込みやすそうな手合いだ。 あの精神状態は興味深い。絶望した者の顔だ、主人公として手ごわいぞ』 ノートン卿は忌々しげに吐き捨てた。 『それともオレイン卿めとは無関係か? 打ち負かしてから訊ねるとしよう』 「はあ。そうですね」 俺もようやく全身の痺れがとれ、戦闘準備が整いつつある。 蔓延する煙を避けるように、体を低くする。 「――ああ、残念」 このとき、ひどく楽天的な、少年の声が聞こえた。 ひとり悠々と階段を降りてきた弓島由一は、一段高いところから、 不遜な目で俺と倉敷を眺めていた。 「どっちにもそれほどダメージはないみたいだね。 まあ、いいけど。ここで終わりにしようか?」 弓島由一は、例の物騒なエアガンを掲げてみせた。 「どっちも二人揃ってる。この状況からなら、オレが勝つし。 いまなら降参してもいいよ」 「……」 倉敷はそちらを一瞥しただけで、また俺に向き直った。 「……あれは、ほんの子供だ。やはり問題はお前だな」 そんなこと言われても、困るぜ。 俺はアメリカの俳優のように肩をすくめた。 そして、いくつかのことが瞬時に起こった。 「無視」 弓島由一はエアガンの銃口を、すこし下に向けた。 「するなよな、おっさん!」 床を撃つ。マジかよ。 ばきばきと唸りをあげるような音が響き、打たれた部分の床が割れ始める。 俺と倉敷は態勢を崩さざるを得ない。 だが、倉敷はよろめきながらも平然と左手をあげ、掌をこちらへ向けた。 なにかの紋章のような刺青。そして手の甲に拳銃の銃口を突きつけ―― 「いけ!」 銃声が連続して数度、その掌から血の迸りとともに何かが飛び出してくる。 異形の、蜂に似た影であったと、後にノートン卿は教えてくれた。 実際には影など視認する暇もない。 それは弾速で飛ぶ、異世界からの存在であった。 自分の手をゲートに、銃弾を媒介に、こいつらを呼びやがった。 イカれてるな、この男は。 最後に俺は、といえば。 『では、英雄の戦い方を教えよう』 こともあろうに、ノートン卿のアドバイスに従って動いていた。 『まずは、颯爽と馬に乗り――』 ノートン卿のページを翻し、俺は影から《軍馬》を編集した。 陽炎のような影のタテガミをもつ、命なき馬。 だが、城塞の魔導書であるノートン卿によって編集されたそいつは、 完全な状態で手入れされ、出撃命令をいままさに待機していた駿馬に他ならない。 俺は乗馬なんてろくにできないが、しがみつくくらいのことはできる。 影から飛び出した《軍馬》の手綱をかろうじて掴む。 向かう先は倉敷椋鳥。 やつは怪訝そうに眉をひそめていた。無謀な突撃に見えるだろう。俺もそう思う。 というか、まさにその通りだ。 『次に、雄々しく槍を掲げ――』 俺は何ももたない右手を掲げた。 その瞬間、倉敷椋鳥の放った異形の蜂の何匹かは、疾走する《軍馬》の首を正確に貫いた。 他の何発かは弓島少年に向かったのではないだろうか。 もとより、この弾丸をかわせるとは思っていなかった。 《軍馬》は悲鳴もなく力を失い、黒い影のゆらめきに戻る―― 誕生から消滅まで、わずか数歩の運命であった。 ただし慣性の法則が消えるわけではなく、俺の体はそのまま前のめりに跳ぶことになる。 『そして、鬨の声をあげながら、正面から突撃するのだ! かかれ!』 ひでえアドバイスがあったもんだ。 だが、それで充分だった。 宙を跳んだ俺は、倉敷に飛びかかっていく姿勢になった。 むろん、倉敷も黙っていたわけではない。 やつは拳銃の狙いを即座につけ、俺めがけて発砲した。 狙いも正確、頭部。眉間の中心。 しかし俺は左腕ですでにそこを庇っている。 銃弾が左腕に当たる衝撃。 乾いた音が響き、左腕の皮膚一枚のところで俺の血が弾けた。 「やはり、そうか」 倉敷が呻いた。 「その腕はなんだ? 魔人か? いや――お前はただの――」 「そうそう、編集者なんだよな」 結果として、俺は倉敷に飛びつくことに成功した。 ついでに、その頭部を右手で掴むことも。 互いに倒れこむ一瞬、倉敷は俺の右手の平にあるものを見ただろう。 そこにある刺青のことだ。 ノートン卿のおよそ1ページ分に相当する、複雑なスペルがびっしりと腕を覆っている。 おかげで俺は偉大なノートン卿の機能をほんの少しだけ、 限定的ではあるが自分の肉体で行使できるということだ。 ノートン卿を持つ左手には《城壁》のスペルを。 そうでなければ魔人の一撃を防いだり、銃弾を弾いたりできるものか。 倉敷椋鳥が己の体にゲートを刺青として刻んでいたように、俺は俺で必死に色々やっているのだ。 特に俺は、魔人でもない普通の人間なのだから、なおさらだ。 「――編集者、」 倉敷は何か言おうとしただろうか。 だが、俺の右手の刺青に仕込んだ《槍》のスペルが編集される方が速い。 攻撃の完成には音もなく、倉敷の頭部は血飛沫とともに爆ぜる。 俺の手の平から編集され、飛び出した槍は、この魔人の頭蓋骨を完全に貫通・破砕していた。 それとほとんど同時、右の腿にかすかな衝撃を感じた。 残るは、弓島由一しかいない。 振り返るとこちらに銃口が向いていた。 「オレの勝ち」 弓島由一は、その《魔弾》を完全に俺に着弾させていた。 俺の体に止めようのない何かの力が働くのがわかった。 「武器の性能が違ったね、おっさん。ま、そういうことで」 「うるせえぞ、クソガキ! 爆散して死ね!」 俺は右手に編集された、影の《槍》を思い切り投げつけた。 弓島由一はむろんそれに取り合わす、軽く身を捻ってかわした。さすが魔人の動体視力。 「無駄だって。もうここからじゃ」 弓島少年は階段に腰掛け、嘲笑うでも、勝ち誇るでもなく、ただ片眉を持ち上げた。 床には地割れができて、ただでさえ距離が離れている。 俺はこのまま吹っ飛ばされて、場外負けになるのか? やれやれ。 「そうかよ。お前のことは――」 ここから逆転できる可能性は、万に一つもない。 俺はノートン卿をそっと閉じた。 「最初から脅威じゃなかった。なぜかといえば」 『然り。主人公として、この小僧は薄い』 ノートン卿は厳かに断じる。 『肝に銘じておけ、ユキオ。きみも同じくらい薄いからな。 バックボーン、戦う理由、過去にまつわるすべて。これをプロローグという。 その質量が主人公を強くするのだ。この私のように!』 「そうですね」 『プロローグ無きものに敗北するノートン卿ではないわ、馬鹿め!』 「そうですね」 反論する意味はなさそうで、やはり俺は相槌を打つだけの機械になろうと思った。 この状況、編集者の発言にどれだけの価値があるだろう。 ――ノートン卿を閉じたことにより、俺が編集した影の《階段》はその構造を失った。 雪崩のように倒壊し、それは、弓島由一を巻き込んで恐るべき轟音をたてた。 最後に弓島は逃げようとしたが、逃げても無駄であっただろう。 なぜなら、この戦いが終了した後。 最終的に俺が一息ついたとき、洋館のすべてが崩れ落ちたからだ。 弓島の《魔弾》の効果により、壁をすり抜け、館の外に飛ばされた俺はその崩落から免れた。 洋館の基礎構造部分をまるごと、ノートン卿の影の城塞による安全設計素材でこっそりと入れ替える。 言っておくが、これは俺のプランだ。 ――いや、本当に。 ノートン卿が「とにかく派手にやりたい」と主張したのは事実だが。 ―――――――――――――――――――――――――――― 『ところで見たな、ユキオ。倉敷椋鳥のあの紋章を』 「魔導書のスペルに似てますね」 『いや、紛れもなくそのものだ。 オレイン卿が手勢を潜ませているのは間違いない!』 「そうですかね」 『そうだ』 「そうですか」 『そうだ』 「……割りに合わないっすね。俺、いいこと考えましたよ」 『言ってみろ』 「大会運営本部に忍び込んで、賞金だけ奪って帰る。邪魔をするやつは殺す!」 『恐ろしく下劣な発想。だが』 「だが?」 『大会運営本部に奇襲をかけるというのは、一理あるな。 ふむ。やつらがオレイン卿と繋がりがあるかどうか、調べることができる。 検討の余地はある。つまり、次の計画はこうだ――』 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/dangerousss3/pages/167.html
裏第一回戦【遊園地】SSその3 ◆大会ルールについて◆ 試合の勝利条件は 対戦相手の戦闘不能(審判判断) 対戦相手の殺害 対戦相手のギブアップ 対戦相手の戦闘領域からの離脱(試合場による) のいずれかを満たすことです。 ただし、以下の禁則事項を破っていたことが判明した場合、 その時点で反則敗けとなります。 (試合後に判明した場合でも直前の試合まで巻き戻して裁定) 試合開始時刻になっても試合場に入場しない(遅刻) 勝敗確定後の戦闘行為 参加者含む大会関係者との金品のやり取り (試合中のアイテム奪取や試合後敗者からアイテムを引き継ぐのは可) 大会運営者への虚偽申請 試合中、対戦相手以外の観客等に危害を加える行為 その他大会運営者が著しい悪徳行為と判断した場合 ※ダンゲロスSS3wikiより抜粋 ◆試合2日前◆ 目高機関御用達のとある病院にて。 「――駒音様の『裏トーナメント』第1回戦の対戦相手は雨竜院 雨弓様と高島平 四葉様です。試合場は遊園地で開始は明後日の午前5時開始となります。」 「おお、そりゃぁ随分と早いねぇ~。まぁ四葉ちゃんはソチラさんとしてはあんまり目立たせたくないよねぇ~」 「その様な他意はございません。表トーナメントとの兼ね合いでご迷惑をおかけいたしますがご了承くださいませ」 白い病室のベッドに伏せる銀髪の少女、偽名探偵こまねに裏トーナメント第1回戦の詳細を伝える黒服の銘刈 耀。 じ、と駒音を見やる。彼女は『精神汚染』を受けこの病院に担ぎこまれたはずだ。 しかし、少なくとも見る限りでは彼女の精神はまるで何事もなかったかのように落ち着いているようだ。 「ん~?そんなに見つめられると照れちゃうな~。あたしが裏に出ることが意外ぃ~?まどろっこしい喋り方を続けてるのが謎ぉ~?それともあたしがファントムルージュから復活できたことが不思議なのかなぁ~?」 「ふふ、全部、と言っておきましょう。では私はこれで」 「あ、ちょっと待ってぇ~。ルールについて一応確認させてもらってもいいかなぁ~」 「えぇ、構いませんよ」 ‥‥‥ ‥‥ ‥ ◆試合前日◆ 参加選手宿泊施設にて。 ジリリリリリリリリリリリリリリリ 『午前8時になりました 午前8時になりました』 リンリンリンリンリンリン Ding Dong Ding Dong Ding Dong 目覚まし時計の大合唱の中のそのそと起き上がるのは邪悪な幼女、高島平四葉である。 世界征服を企むような彼女にも朝が弱いという可愛らしい一面もあるのだ。 全ての目覚まし時計を黙らせた後も彼女が不機嫌な顔を浮かべているのは朝の憂鬱だけが原因ではない。 ――負けた。自分の駒になるべき人間に負けた。自分は自分が思っていた以上に未熟だった。 ――だからと言って、このままでは終われない。 顔でも洗おうと、自分の個室を出る。すると、 「四葉ちゃん、おっはぁ~」 「よお、邪悪幼女」 偽名探偵こまねと雨竜院雨弓がいた。 「‥‥何の用事かしら」 「ほらぁ、これも何かの縁だし負け猫同士交流を深めようと思ってさぁ~」 「明日踏みつぶす予定の相手と仲良くする義理なんてないわ」 「おいおい、俺も交流会だなんて聞いてないぞ。流石にこっぱずかしいんだが」 「まぁまぁ~、WL社とファントムルージュに関わる話でもする、って言ったら、2人とも無視できないでしょぉ~?」 四葉と雨弓の表情がピクリ、と動く。 「あ、試合場の遊園地が試運転もしてるらしいからぁ~お話は遊園地で遊びながらにしよぉ~!徒歩で行ける距離みたいだしねぇ。1時間後に出発するからねぇ~」 雨竜院雨弓は考える。 ――あの偽原ってやつがファントムルージュ使いかもしれねぇって話もあったしな。つってもどうせ『裏』があるんだろうが、面白れぇ、それも踏まえて『戦闘』だ。乗ってみるか。 「ま、折角だしな。にしても遊園地なんて何年振りかねぇ」 高島平四葉は考える ――WL社の情報は確かに欲しいところ。それにしてもファントムルージュって何かしら。まぁいいわ、この2人に対して私が戦闘で負ける要素なんてないんだから、絞れるだけ情報を頂くとしましょう。 「し、仕方ないわね、行ってあげるわよ」 こうして裏トナメ遊園地組★ワクワク大交流会が開催されるに至ったのだ!! ◇ジェットコースター 「ま、遊園地っつったらまずあれだよな」 「え」 「おぉ~ナカナカの高低差ですなぁ~」 「わ、私は身長足りないから」 「無人運転みたいだし、誰も文句なんて言わないよぉ~」 「怖えーのか?はっ、意外に幼女らしいところあるんじゃねぇか」 「な、な、そんな訳ないじゃない!乗るわよ、乗って見せるわよ」 「ひゅー、久しぶりに乗ると楽しいもんだなおい」 「いやぁああああ、飛ぶ!、吹っ飛ぶ!!」 「し、しっかり掴まってれば大丈夫だよぉ~。ね、落ち着いとくれよぉ~」 「ん、しばらく使われてなかったからかあっちのレール老朽化してんな。人乗って耐えられんのか?」 「降ろしてえええええ!」 「だ、大丈夫だよぉ~。 多分」 「いやぁぁぁあああああ!」 (※そちらの趣味の人はこの時に四葉ちゃんがお漏らししたとしても良い) ◇幽霊屋敷 「‥‥次、あれ行きましょう」 「幽霊屋敷ぃ、そんな子供騙し面白れぇのかよ」 「う、うんそうだよねぇ~。や、やめようよぉ~」 「目が泳いでるわよ、偽名探偵」 「に、苦手なんだよ幽霊(ファントム)とかそういうのはぁ~」 「人にコースター無理強いしておいて自分は逃げるとかいうのかしら」 「そんな無理強いしたっけぇ~!?」 「…よし、行くか!」 「いやぁ~だぁ~」 「ひぃ~」 「ぷっ、こんな子供だましのが怖いなんてかっこ悪いわね偽名探偵」 「ぎゃぁ~~~、幽霊(ファントム)がいっぱいだぁ~」 「そんなの偽物に決まって、ってきゃーーーー!!私のことすり抜けた!物理的にありえないわよあの動き、本物よ、本物!」 「はっはっは、すまん、生ぬるすぎたから俺が能力使っちゃったっておい、その物騒なもん出すな!幼女が使うもんじゃねーから!」 「ファイヤー!」 「やめろッ!」 「幽霊(ファントム)コワイよぉ~」 (※そちらの趣味の人はこの時に駒音がお漏らししたとしても良い) ◇メリーゴーランド 「‥‥‥え、俺もこれ乗らなきゃいけねーの?」 「断る気ぃ~~?」 「拒否権なんてないわよ」 「し、死にてぇ」 「あはは、雨竜院さんかわいぃ~」 「結構お似合いじゃない」 「死にてぇ」 「四葉ちゃんもかわいいよぉ~」 「なっ!?」 「死にてぇ」 (※そちらの趣味の人はこの時に雨竜院がお漏らししたとしても良い) ◇ランチ 「大分お昼も過ぎちゃったしランチにしようかぁ~。流石に売店とかはやってないと思ってサンドイッチつくってきたんだぁ~」 「あら、気が利くじゃない」 「まぁ正直そんな大したもんじゃないんだけどどうぞぉ~」 「おー、こりゃうめー」 「んー、マスタードがよく効いてるわね」 ピン↑ポン↑パン↑ポン↑ッ♪ 『あー、マイクテス、マイクテス。明日試合の実況をさせていただく佐倉光素です。よろしくね! みなさん楽しそうですねー、私も運営側でなければ混ざって遊びたいところです! ではみなさんの明日の検討をお祈りいたします!』 ピン↓ポン↓パン↓ポン↓ッ♪ 「‥‥って完全に遊び呆けてたけど私はWL社とファントムルージュとやらの話を聞きに来たんだった!」 「あぁ~、正直そんなに大した話じゃないんだけどねぇ~」 「おいおい、とにかく話せよ(モグモグ」 「そうだねぇ~。あたしの1回戦の敵が偽原っていう元魔人公安の人だったんだけど、その人の能力が『ファントムルージュを体感させる』能力だったんだよねぇ~」 「へぇ、なるほどな」 「えーっと、本当は知ってるけどそのファントムルージュって何だったかしら」 「昔作られた、見た人の精神を舐り嬲りぶち壊す史上最悪の映画だよぉ~。あらすじは『うんぬんかんぬん』」 「粗筋を聞くだけで気分悪くなってきたわ‥‥」 「しかし、そんなもんまともに体感して、1回戦じゃあの様になってたのによく持ち直したな」 「うん、そこにWL社が絡んでくるんだよねぇ~。どうもWL社は『ファントムルージュの特効薬』を作っていたみたいなんだ。 それでねぇ、私の推理だと偽原さんの大会に出場した動機は『能力で全世界の人にファントムルージュを体感させる』なんだよねぇ」 「…なるほど、WL社はパンデミックで大きな財を成した。もしかするとその2匹目のどじょうを釣ろうとしている可能性があるわけね」 「さすが四葉ちゃん。そういうことぉ~。もちろん全くの仮説にすぎないけど、もし本当だとしたら世界征服をもくろむ四葉ちゃんも、ファントムルージュに借りがある魔人公安の雨竜院さんも、無視できない話でしょ~?」 「そうね」 「あぁ、当たり前だ(モグモグ」 「もちろん私だって偽原さんにはお~きな借りがあるし、絶対に見逃せない。だからさぁ~、同盟を組みたいんだ。試合は試合でやる。だけど誰が勝とうと負けようと、このファントムルージュの件を解決するために。名付けて遊園地同盟だよぉ~」 「へっ、ファントムルージュには借りを返さなきゃなんねぇからな。OK、同盟を組もう。ただし明日勝つのは俺だ」 「いいわよ、その代り2人とも私の下に付きなさい」 「えぇ~、あたしは生涯この人だけに着いてくって人がいるからなぁ~。まぁ~、明日勝った人がリーダーってことでいいんじゃない」 「ま、いいわ。あんたら2人が私に勝てるわけないし」 「そんな傲慢だから1回戦無様に負けんだよ」 「あんたに言われたくないわよっ!」 「まぁまぁ~、遊園地同盟ここに結成ってことでぇ~。じゃぁ今日はもうちょっと貸切遊園地を楽しんじゃお~」 「いいだろう、腹も膨れたしな」 「ふんっ、明日早いんだからほどほどで帰るわよ」 「なんだかんだで四葉ちゃんも結構ノリノリだよねぇ~」 「なっ!」 こうしてこの日、遊園地同盟が結成し、彼女たちは結局日付が変わるぐらいまで遊び続けたのであった。 ‥‥‥ ‥‥ ‥ ◆試合当日◆ ――高島平四葉は世界征服の夢を見る。 「しぃぃあああああ!!」 雨竜院が幻影を織り交ぜた傘術を繰り出す。 単体でも並みの魔人では避けえぬ傘術が見えぬのだ、必殺の威力を持つ『雨月』! しかしそれを駒音は何とか躱していく。 その秘密は彼女の能力の『音玉』の運用にあった。 今彼女は雨竜院の動作によって起こる音すべてをシャボン玉になるようにしているのだ。 例えば傘を動かせば空気と擦れわずかにではあるが必ず音が発生する。 それらをすべて小さなシャボン玉とかえ、その位置を認識すればどんなに光学的な幻影を繰り出そうと、実際の行動は駒音に筒抜けなのである。 実際彼女は目をつぶって戦っていた。 音のプロフェッショナルである駒音は雨竜院の能力『睫毛の虹』の天敵ともいえる。 ダァン、ダン、ダァン 続けて響く銃声。駒音は隠し持っていた銃をぶっ放す。 それも、自分の声真似による偽物の『銃声』を織り交ぜながら!しかし、 「雨流」 傘を開き回転させる。そんな簡単な動作で雨竜院は駒音の攻撃を完全に防いでいた。 警視庁「兵課」でも屈指の実力者である雨竜院に、ちょっと毛の生えた程度の銃撃など効かぬ! 「それなりには楽しませてくれるみたいじゃねぇか」 「参ったねぇ~、相性はいいと思ったんだけど、それでも勝つのはしんどそうだなぁ~」 「 茶 番 」 わずか11歳の少女は、口の端を吊り上げて嗤った。 2人の戦闘風景は、当然のように……最初から最後まで、余すところなく捉えている。 彼女は今、対魔人LCV――指揮装甲車の車中にいるのだから。 まぁ、表トナメで使った以上、裏トナメでも使うよねっていう。 《んー。雨竜院雨弓。偽名探偵こまね。君たち2人に告ぐ》 《わたしは、ご存じ高島平四葉――》 《今すぐ降伏しなさい》 《ちょっと期待したけど、あんたたち2人に現代兵器をどうにかする方法なんてないでしょう?》 《茶番はとっとと終わらせてとっとと私の駒になりなさい》 雨竜院雨弓と偽名探偵こまねは目を見合わせて、 「「断る」」 2人は同時に返答した。 「ふぅー、じゃぁ1回死になさ‥ん?」 四葉が指揮装甲車の中でありえない光景を捕えた。 雨弓と駒音の2人の肉体が触手となっていく! 「え」 そして2つの触手が合体する! 「え」 「能力作動。『睫毛の虹+音玉/緋色の幻影(ファントムルージュ 3D)』。……上映(うんめい)、開始」 「え」 大気中の水分を利用して光の反射や屈折を操り、幻影を見せる『睫毛の虹』を持つ雨竜院雨弓 音をシャボン玉にして保存・運搬ができる『音玉』を持ち、自らの声真似能力であらゆる音が再現できる偽名探偵こまねが組み合わさったなら。 そして、今回再現するのは劣化などではない。偽原によって見せられた原典のファントムルージュ! ――それは、もっとも残酷な世界 ファントムルージュは今ここに受肉を果たした。 「ちょ、ま、え?」 そして、この冗談か悪夢のような展開に四葉が思わず自身の能力を使ってしまったことを誰が責められよう。 事態の打開を求めてとっさに起動した『モア』は 『真・緋色の幻影(ファントムスカーレット)』 ファントムルージュすら超える存在を生み出した。 そのあとの展開は早かった。簡単な話だ、ファントムスカーレットが世界すべてを絶望に塗り替えたのだ。 世界はモヒカンと触手に溢れ、ファントムスカーレットを生み出した四葉は『偉大なる母』としてこの退廃した世界に君臨することになる‥‥。 そう彼女は望み通り世界を征服したのだ。 「ち、違う、私が求めていたのはこんなものじゃ――」 そう独白したところで、四葉は目を覚ました。 「はぁ、はぁ、はぁ、なんだ夢オチ‥‥」 ひどく汗をかいていた。 何とひどい夢だろう。 しかし。 自分はまだ夢の中にいるのだろうか? ここは自分が泊まっている選手部屋のはずだ。 しかしいつもとその様は全く異なっている。 ――大量のシャボン玉が浮かんでいた。そしてシャボン玉が生まれている。 その発生源は、大量の目覚まし時計からのようだ。 四葉はそこで真相に気付き、悪夢で火照っていた顔を青ざめさせた。 時計はとうに午前5時を過ぎた時間を指していた。試合開始は午前5時。 高島平 四葉、遅刻のため敗北。 少し時はさかのぼり、 夢ではない現実の遊園地にて。 遊園地はすでに多くのシャボン玉がプカプカと浮いていた。 偽名探偵こまねの『前準備』である。 ピン↑ポン↑パン↑ポン↑ッ♪ 『実況の佐倉光素です。ただいまより裏トーナメント第1回戦、遊園地の戦いを始めさせていただきます! なお参加選手の高島原 四葉さんは遅刻のためこの時点で敗北となります。慈悲はありません!』 ピン↓ポン↓パン↓ポン↓ッ♪ 「四葉が遅刻か。駒音の野郎、何かやりやがったな」 そうひとりごちる雨弓の眼は爛々と輝いていた。 彼は戦闘狂と言っても肉体同士の攻撃だけが好きだというわけではない。 知略戦、騙しあい、小細工、そういうものも含めて戦闘だと考えていた。 (そしてそういう小細工を力でぶち破るのも大好きである) 自分の胸から鼓動に合わせてシャボン玉が発生しているのを見て、おそらく自分の位置は把握されているのだろうと考える。 ならば無理に身を隠しても仕方がない。狙撃に注意しながら駒音を見つけ出せばよい、と考え遊園地を闊歩し始める。 10分ほど索敵を続けると意外にも堂々と駒音が身を現した。 「四葉が遅刻したのは駒音、お前のせいか?」 「ぴんぽ~ん。『遊園地でめいっぱい遊んだ幼女が次の日目覚ましなしで早起きなんかできるわけないよね』作戦だ~い成功~。 現代兵器なんて勝ちようがないからねぇ~。いやぁ~能力範囲広くてよかったねぇ~。 ま、ホントは雨弓にぃも寝坊してくれればよかったんだけどね~」 「バカ言え、こう見えても公務員なんだ、時間にはうるせーぞ」 そう軽口を言いあう間にも雨弓は傘を構え、駒音はシャボン玉を自分の周囲に集めていた。 「じゃ、始めっとすっか。‥‥『雨月』」 雨竜院が幻影を織り交ぜた傘術を繰り出す。 単体でも並みの魔人では避けえぬ傘術が見えぬのだ、必殺の威力を持つ『雨月』! そして、実際この試合はこの一撃で終了する。 雨弓が繰り出した傘は駒音の頬を掠め、 ピン↑ポン↑パン↑ポン↑ッ♪ 『実況の佐倉光素です。えー、勝敗確定後の戦闘行為を認めましたので、雨竜院雨弓さんは反則負けとなります。 ので繰り上げで偽名探偵こまねさんの勝利、ということになりますねー。で、いいんだよねきららちゃん?』 『うん、それでいいはずだよー』 ピン↓ポン↓パン↓ポン↓ッ♪ 「‥‥は?」 「というわけで私の勝ち抜けだねぇ~」 「どういうことだ、負けが確定してたのは四葉だけだろ?」 「えへへぇ、実は戦闘開始のアナウンスの直後、私自ら園の外に出て負けてたんですねぇ~ そしてわざと攻撃してもらうために姿を現したのでしたぁ~」 「いやいや、そんなアナウンスなかっ‥‥、そういうことか‥‥」 駒音はニヤリと笑うと、シャボン玉の一つを破裂させた。 ピン↑ポン↑パン↑ポン↑ッ♪ 『実況の佐倉光素です。おおーっと、なんということでしょう。偽名探偵こまね選手、自ら園外に出てしまいました。どういうつもりでしょうか。裏トーナメント第1回戦、遊園地の戦いはあっさり雨竜院雨弓選手の不戦勝で決着がついてしまいました~』 ピン↓ポン↓パン↓ポン↓ッ♪ 「ったく、アナウンスを消音するとはな。 いやらしいトリック使いやがって。お前、探偵より犯人の方が向いてるんじゃねーか」 偽名探偵こまねはわざとらしく口笛を吹いた。 高島平四葉 ⇒自分はまだ世界征服を始めるのにはちょっとだけ早すぎたと認識し、とりあえず自分が世界を獲るまで世界を守る決意をする。主にファントムルージュあたりから。 雨竜院雨弓 ⇒小娘にしてやられたことにわりと凹みつつも、ファントムルージュとの決着を目指す。 偽名探偵こまね ⇒今回はあんまりひどい目に合うこともなく、遊園地同盟を作って裏トナメ2回戦進出。 このページのトップに戻る|トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/thcojude88/pages/123.html
ゲゲゲのSSその2 呪われた館! 妖怪肉人形 呪われた館! 妖怪肉人形その2 呪われた館! 妖怪肉人形その3 鬼太ラブ 水の妖怪! 水虎! 水の妖怪! 水虎!その2 『夏目友人帳』が欲しい かまぼこ -Kamaboko- かまぼこ -Kamaboko- その2
https://w.atwiki.jp/dante/pages/34.html
序章 3年前俺の家族が死んだ。 親父は、ドラッグに手を染め、警察に逮捕された。 そのせいで、俺は母さんに虐待された。 小学6年の頃の俺の頭では理解できづにただ殴られた。 そして、母さんは精神異常と虐待で警察にいった。 それからの俺は、荒んでいた。 犯罪やタバコ、酒に手を染めていた。 俺は・・・その年の冬のクリスマスに俺は出会った。